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闇の中からはらはらと、雪のように薄紅の花弁が降り注ぐ景色は、あまりにも幻想的で。 けれども今行われている行為は情緒の欠片もなく、ゴリゴリとした木の幹の感触を薄い襦袢越しに背で感じながら、 自分もまた行為と関係のない事を考える。 どうして、こんなところで。 違う、そんな事は考えればすぐにわかる。 どうして、こうなってしまったのか。 それも違う、こうなってしまう事も予想出来たはずだ。 そう、こうならないようにする事も出来たのではないか、だ。 それとて考えたところでもう遅いと知っている。 でも、だけれど…。 彼を愛しいと、心から、そう思っていたのに ――― 。 桜、散ル。
ほんの少しわざとらしくもある、荒々しい吐息が素肌にかかる。 羞恥心を煽るように音を立てながら舌で犯されている柔らかい双丘は、唾液で湿った部分だけ夜風に触れ冷たい。 「乳首、立ってきた。…さん、気持ち良いの?」 「…うん、好いよ」 そう返すと、彼は不満そうな表情をチラと見せ、は、また 【失敗】 したのだと察した。 どう返すのが正解だった? 達の居る、裏庭と呼ぶには狭すぎる小さな桜の樹が一本ようやく入る程度の、屯所の建物と垣根の隙間。から見て左…ほんの数メートル先にある部屋へ、答えを求めるように視線をなげる。 障子に室内の小さな灯りが映るその部屋の主、土方十四郎が相手だった時、自分はどう応えていた? 頬を染めて 【そんな事、言える訳ない】 等と言っていただろうか。 嗚呼、そういえば、そんなやりとりの記憶がかすかにある。 きっと、その反応が正解だったのだろう。 期待を裏切られた苛立ちを隠そうともせず、再び胸にかぶりついた山崎に気取られないよう、 のけぞるふりをして空を仰ぎ、小さく小さく溜息をついた。 過去、土方とが付き合っていた事を知っている者は、たった一人。 真選組局長であり戦火をも伴に潜り抜けた近藤も、それに加えて勘が鋭い沖田ですら気付いていかったはずだ。 そんな二人の関係を 知ってしまったのは、監察方の、山崎退だけ。 今、の恋人である、彼だけ。 「わ、凄い濡れてる。ねえさん、これは俺だから?それとも誰にでもそうなの?」 皮肉をたっぷりと含んだ言葉で、山崎は自分をも傷付けている。 その証拠に、彼本人は気付いていないだろうが、その表情は泣いているようにすら見える。 最初はこんなではなかった。 人前では目配せで合図だけ。 誰も見ていない時も手を繋ぐ事すら恥ずかしそうにする山崎が可愛くて、愛しくて。 そんな、今までが経験した事のない、学生のような付き合いに自分すら可愛く想えて。 土方との、ただ堪えるだけで、苦しくて辛い関係と違い、毎日がキラキラと輝いているようだった。 ――― 山崎と、初めて身体を重ねた、その時までは。 それはきっと、彼が、土方との関係を知る事になった時に、目にした行為だったから。 その時まではお互いそれに触れないようにしていた。否、にとって土方は過去であり、山崎と比べる事は一度たりともなかった。 彼を、誰よりも、愛した。 けれど自分の下で喘ぐ女が、たまたま目にしてしまった、別の男に抱かれていた女と重なってしまったのだろう。 山崎はそれを無かった事に出来ず、過去にする事も出来なかった。 男としても、上司としても、きっと永遠に追い付く事が出来ないだろうと思う、土方の女だった。その時から山崎にとっては、自分の恋人ではなく、別のものになってしまった。 花弁を開き、ひっそりと隠れていた実を探りあて、それを少し強引に擦りあげられる。 強引であろうが、大切な人の愛撫はきちんと快楽となっての身体中を巡っていく。溢れ出る蜜で摩擦は減り、逆にもっと刺激をと求めだす。 蕾の中にいたそれはぷっくりとその姿を主張し始め、快感は急速に、更に貪欲になっていく。 もう少し、もう少しで昇りつめる事が出来る。 の喘ぎ声は高くなり山崎の隊服をぎゅうと握り絞めた時ふいにその指は離れていき、そのの気が抜けた一瞬に身体を貫かれた。 「っっぁぁぁ……!!」 「ん、くっ、う!」 一番望んだそれを急に与えられ、目の前が真っ暗になり、そしてチカチカとする。 まるで漆黒の夜空に稲妻が走ったような快楽。 「…凄い、さん…イきそう、だった、でしょ…凄い、絞まってる」 絶頂近く、生理的な涙を瞳いっぱいに溜めたはコクコクと頷く。 早く達したいと、山崎をぐいぐいと絞めつけるそれも言葉よりずっと明確に訴えてくる。 気を抜けば自身も達してしまいそうになるが、を抱きあげる腕に思い切り力を入れて堪える。 ずるずると抜き出し、思い切り奥まで腰を打ち付ける。 数回繰り返しただけで眩暈を起こしそうになり、額に脂汗が滲む。 「さ、ん、ぐちゃぐちゃで…っ、とろとろ、ッ」 時計は天辺を越え、ほとんどの者は寝静まっているといえ、風が木を揺すり、遠くで車が走り、音がない訳ではない。 けれど、二人の体液が交じりあった水音や、徐々に高くなるの声はそれだけでは隠しきれなくなっている。 土方の部屋の灯りが揺らいだ後、フと消えた。勘の良い彼の事だから、山崎との関係も、今ここでの事もきっと気付いているだろう。 否、山崎からすれば彼に気付かせたくてこんなところでしているのだから、当たり前なのかも知れない。 「ね、え…俺で、感じ…てるの?俺で…俺だから…!」 じわりじわりと、でも確実に昇りつめていく状況で、まるで幽体離脱でもしているかのような感覚に襲われる。 快楽を全身で感じて貪りながら、それをどこかで眺めてでもいるような。 チラと視線を上げると、はらはらと舞い落ちる薄紅。 きっと、これで、さいご。 これで、これで、おしまいだ。 あまりにも美しくて幻想的な世界のなか、悦楽に浸る肉体を置いて、はそっと感じていた。 もしかしたらずっと前からわかっていたのかも知れない。 こんな関係が続く訳ないと。 けれど、けれど、こんなまでになってしまっても、手放したくない程に、大切な存在になってしまっていた、から。 「退、あたし、も、ダメ、もう、」 「また、絞ま、る…っ、」 ひと際声が高くなる箇所を擦るようにしていた山崎も余裕がなくなり、ただがむしゃらに突き上げるだけになっていた。 背中に感じる木の幹は容赦無く柔肌を赤く赤く傷付けていく。 精神と肉体は再び同化し、ヒリヒリとする背の痛みは心の痛みに重なり、つうと涙が零れ落ちた。 「さん、イくよ、出すよ、う、さん、さ… ――― ッッ」 「あ、ああっ、退…、あたしも…っ、イ、くぅ…!!」 永遠に続けば良いと思った、胸を締め付けるような酷い痛みを伴う戯れは、はたた、と山崎の体液が零れると同時に終わりを告げた。 が、はらはらと降り注ぐ花びらとの涙は、そのまま流れ続けていた。 |