口の中に血の味がこびりついている。 口唇を噛んでしまったのか、叫び過ぎて喉が切れてしまったのか、 それともただ単に怪我をしているのか、朦朧としている意識ではわからない。 重い瞼を持ち上げると、壁に金魚がユラユラと泳いでいる。 この部屋唯一の嗜好品である、絵が映しだされる灯籠。 ゆっくりと泳ぐ金魚を目で追うと、人影が目に入った。


「あ。目、醒めた?」


にこり と、いつもと何一つ変わらぬ笑みが現れ、を見下ろした。「神威」と、彼の名を呼ぼうとしたが、声は枯れ果てて出てこない。 パクパクと口を動かすだけ。まるで、金魚のように。


「あれ?声出ない?」


躯から汗がじんわりと滲み、球になるとつぅと伝う。 敏感になっている躯では、涙とともに伝うそれすら、 羽でなぞられているのと同じように快楽の一つとなってしまう。


「大丈夫だよ、すぐに出るようになる」


幾晩過ぎていったかもう判らない。 彼に連れて来られて以来、ずっと躯を重ね続けている。 達しては気を失い、意識が戻れば、また。 その繰り返し。 髪も顔も頭の中もグシャグシャで、見られたものではないだろう。 けれど彼は、それを見て楽し気に笑った。


「…んあぁっ、」

「ほら。声、出たでしょ?」


擦れ過ぎて痛みすら感じるそこを貫かれ、出ない事が嘘だったかのように艶っぽい声と、ぐちゅ、という音が洩れた。 神威は自分の言った事が当たった事が余程嬉しかったのか、 それとも自分の思う通りに反応する事が嬉しいのか、くつくつと喉を鳴らして笑う。 爪先はぴんと伸び、肌蹴きって蒲団と同化している襦袢を、何かを堪えるようにぎゅうと握った。


「ぅ、あ、あ…」

「イイね、その顔。凄いクる」


浅いところを行き来していた神威は、ゆっくりと奥まで侵入させた。 ぐぐぐ と、狭いところを抉じ開けられ、それだけでまた気が飛びそうになる。


「あ、凄い。ナカ、ピクピクしてる」

「んっ、ぁ…かむ、いっ…」


達する度に収縮を繰り返していたの膣は、既に痙攣し続けるだけになっていた。 ずりずりと神威は自身を引き抜き、ぎりぎりのところまでくると思い切り最奥まで貫く。 正常な意識など当にない。 見世から無理矢理に連れて来られてから、ずっとこの部屋の中。 彼と壁の金魚しか居ない、この部屋の中。


「ぅあっ、神威、神威っ…!!」

「なに?」

「神威っ、ぁあっ、」

「あ、アレ、シて欲しいの?」


こくこくと哀願するように神威に強請ると、「の変態」 と耳元で囁かれる。の脚を自分の肩に掛け、神威はに被いかぶさる。尻は持ち上がり、神威は更に奥まで入り込み、からは精液混じりの蜜が溢れ出す。 そして、神威の綺麗な指が首に絡み、ぐっと力が入る。


「ぅ、ぐっ、ん…っ!」

「また絞まってきた。はホントにコレが好きなんだね」

「あっ、ぅう…くっ」


呼吸が出来ず、生理的な涙と唾液が零れる。 涙で滲む世界は、にこやかに自分を見下ろしながら首を絞める神威と、天井だけ。は助けを請うように、軋む腕をあげて彼に手を伸ばす。 視界に入った自分の腕には、幾つもの赤い筋から血が滲んでいた。


「かはっ、くっ、ぁっ…!」

「いいねその顔、もっと見せてよ、もっと、もっと」


徐々に挿抽の速度が上がり、比例して首に込める力も増していく。 二人の体液が交じった水音がぐちゅぐちゅと響いている。 はまた意識を手放してしまいそうだった。 首を絞められているからなのか、快楽からなのか。 最初の頃はただただ苦しいだけだったというのに、 それが今迄味わった事のない程の快楽に変わるのに、然程時間はかからなかった。


殺される。
神威に殺される。

頭の中に警鐘のように鳴り響くそのコトバ。 けれどそれすら、愛しさに変わっていく。


格子戸の中には以外にも女は多く居た。 それほど格の高い見世でもない。 あれだけ雑多に居る女の中からどうしてを連れ出したのか。 そして、どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか。 神威に初めて犯された時はそんな事だけ考えていたが、今は消え去っていた。 だって、彼にとっても、きっと自分だけ。


「神威、また、くる…っ、イっちゃう、イっちゃうよぉ…!!」

「良いよ、俺もあげる。だからもっとエロい顔して、キチガイみたいに俺を求めてみてよ」

「あぁっ、神威、神威、神威っ!!」


何度達してもその高みへ登り詰める感覚は際限なく、最大の快楽を齎す。肌がぶつかる音、厭らしい粘着質な水音、悲鳴にも似た自分の嬌声。何もかもがを追い立てる。


「ほら、あげるよ、全部…っ」

「嫌ぁ!死んじゃう!あぁっ、神威、あぁぁ ――― ッッ!!」


締め付ける膣壁をめりめりと押し広げ、躯の芯に白濁を流し込まれる。 どくん、どくん、と、心臓のように動く神威のそれが、まだ生きているのだと感じさせる。


嗚呼、良カッタ。
未ダ、神威ヲ愛セル。


再び遠退く意識の端。ユラユラ泳ぐ金魚と神威がこちらを見ていた。 精を放つ時に見せる少しだけ歪んだ表情よりも、もうほんの少し辛そうな顔。 こんな風にしか人を愛せない彼の、唯一人間らしいその顔。は、それが見られるだけで、良かった。


あたしは金魚

壁に映るそれと同じ。貴方の為だけに踊り続ける



意識が戻れば同じ事を繰り返し、いつかは終わりを告げる時が来る。
その日は決して遠くない。
けれど、拒まない。
きっと、神威のその顔を見られるのはだけ。
それだけを、今は求めているから。


OMAKE


大切なお友達、こまち (tubu*tubu cherry@coma) へ捧げます。