奥州にも短い春がやってきた。
城の裏、あまり知られていないこの小さな丘にも、白詰草が生い茂っている。


「器用なモンだな」

「このくらい、女の子は皆出来ますよ」


編まれていく白詰草の花の下から、心地良いハスキーヴォイスが聞こえてくる。
クローバーの絨毯の上、座るの膝を枕にして、寝転ぶ奥州筆頭、伊達政宗。
柔らかい春の風が二人を撫でる。


「良い風ですね」

「yeah」

「なんか、平和ですね…」


ぽつりと零したのその言葉へは、返答がなかった。
この戦国の世に、真の平和等存在しないからか。
実際、彼は数時間後、戦へと赴く。
だからいつもは煩い小十郎も、文句ひとつ言わずに二人の時間を取らせてくれるのだろう。
終わっていない大量の庶務に、一人で追われながらも。
刹那の、この幸福な時を、彼に過ごさせてやる為に。


「俺が天下獲ったら、嫌という程平和を味わえるだろうよ」

「…………」

の願いも、何でも叶えてやるぜ?」


そよ風に乗って彼の声が耳に届く。
独白のように小さいけれど、強い意思を感じるその声。
幾度となく聞いてきたその言葉に、はつい頬が緩んでしまう。
背を向けていた政宗は、膝の上でごろりと回り、を見据える。


「For what do you hope?」


彼の話す異国語。
に理解は出来ないが、言いたい事はわかる。
彼の目を見ていれば、尚の事。
隻眼の、その目を。


「私は……こうして、政宗さまのお傍に居たいです。ずっと」


ふわり、と。
暖かい陽の光とともに降って来た、の言葉とその笑顔。
政宗はそのまぶしさに、目が眩んだ気がした。
小十郎や仲間を大切に想う強い気持ちとは違う、
大切で、胸が苦しくなるようなこの想い。
奥州の筆頭である自分が、こんな女々しい感情を抱くなどとは思いもしなかった。
政宗はそれをに悟られないよう、またごろりと身を返し、背を向ける。


「Ha!お前は欲がねェな」


欲がないと言うけれど、政宗自身も何となくは判っているだろう。
と出会う前なら理解する事も出来なかったろうが、それは、何よりも贅沢な願いだと。


戦で、志半ばで散り逝く事なく、
政宗と、と。
この穏やかな時間を供に。
本当の、泰平の世で。


優しい陽差しが二人を暖かく包む。
編んでいた白詰草のクラウンが完成した時、大きな背中から小さな寝息が聞こえてきた。
は出来上がったそれを、起こさないようにそっと政宗の頭に置いてみる。
判っていた事だけれど、花で作られた可愛い王冠は彼に似合わない。
は込み上げる笑いをぐっと堪えた。
こんな姿、他の誰にも見せられないだろう。
独眼竜とまで言われる激しい気性をもつ彼も、こうしていると微笑ましい。


眠る政宗の髪に、するりと指を通す。
男の人らしい少し固めの、真っ直ぐな髪。
鳶色のその髪を、撫でるように何度も何度も梳く。


秘密の花園、眠る君



もう一つ。
もう一つ、願いが叶うのならば。

あと少しだけ、政宗さまに、この穏やかな時間を ――― 。

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TITLE : 月夜