突き抜けるような青空、爽やかな風。
誰もが思わず出掛けたくなるような陽気だった。
それだというのに、二人は部屋に篭ったまま。
陽の入らない薄暗い窓際で、沖田は壁にもたれて寝ていた。
パッチリとした目が書いてある、いつものアイマスクをしているので、正確には眠っているのかどうか判らないけれど、少なくとも数刻はこの状態だった。
色素の薄い、細い髪の毛だけがサラサラと風に靡いている。
全く微動だにしない彼に、は小さな溜息をひとつついた。


「いつまでもこんなとこに居ていいの?」

「…今更、何言ってんでェ」


思った通り彼は寝ておらず、愚痴のようなの言葉に反応を示した。
気怠そうに、アイマスクをずらしながら。


天人がこの地にやってきてからどの位経つか。
彼らとの貿易が始って数年は物価の高騰が続き、生活を圧迫されたせいで誰も彼もが攘夷を望んでいた。
今となっては市場も落ち着き、道を往来する天人の姿や空に浮かぶ奇怪な船にも見慣れ、 すっかり攘夷思想も薄れてしまった。
けれどは、今尚活動を続けている。
世間はそうであっても、には彼らが許す事は出来ずに。


「前は月に2、3度来る位だったのに、最近はそれが週単位じゃない」

「俺の勝手だろ、には関係ない事でさァ」

「関係大有りだ、ここは私の家でしょーが」


最初は互いに知らなかった。
が攘夷志士であり、沖田は敵対する真選組の人間だとは。
知った時には簡単に壊れる関係でなくなっていて、一瞬だけ、互いに驚きの表情を見せただけだった。
人には話せない、背徳の恋…とでもいうのか。
恋なんていう可愛らしい言葉は似合わないし、ましてや背徳という言葉など微塵も感じさせない二人だけれど、それでも二人の時間はいつも穏やかだった。
仕事や活動の話しをするのに、互いに気を使う事もなく。


沖田が見せた、小さな変化。
何があったの?と言わんばかりに見てくるに、今度は彼が溜息をついた。


「土方さんがウゼーから、屯所に居たくないんでェ」

「それは前からじゃなかった?」

「最近特に」


大きなあくびをしながら固まった身体を伸ばし、普段あまり表情を崩さない沖田は心から嫌そうな顔を見せた。
それはきっと、此処では素でいられるから。
知り合った頃は、眉ひとつ動かさずにドS発言を繰り返す沖田を見て、はただ驚くばかりだった事を思い出す。
懐かしさに思わず笑いが込み上げ、はお茶を淹れるふりをして誤魔化した。
四畳半のワンルームでは、玄関側の台所と部屋奥の窓際でも手の届く距離だけれど。


「俺が屯所に居なきゃァ、近藤さんあたりは真面目にパトロールしてると思い込んで喜ぶし、一石二鳥なんでさァ」

「結局昼寝してるだけなのにね」


装ったからには淹れない訳にいかず、はお茶の準備を始めていた。
クツクツと湧き出したやかんの火を止め、急須に茶葉を入れると、それだけでお茶の良い香りが鼻をくすぐる。
少し茶渋の付いている、藍色と朱色のペアの湯呑にお茶を注ぐ。
彼が使い始めた頃は、染みひとつない新しく綺麗だったそれに。


「で、最近の真選組副長は、一体何がウザいの?」


濃い茶色の卓袱台に湯呑を置くと、コトリという乾いた音がやたら耳についた。
一瞬、沖田が言葉を躊躇ったから。


「やたら1つの仕事に気合い入れ過ぎなんでさァ」

「何の仕事?」

「攘夷浪士狩り」


沖田の言葉に、がぴくりと反応する。
攘夷浪士狩り、の言葉に。
最近は上層部から護衛や他の依頼も舞い込むようになり、以前程ではなくなっていたけれど、それは真選組にとっては至極当たり前の事。
沖田は沈黙を全く気にする様子もなくお茶を啜り、木製の菓子入の煎餅に手を延ばす。


落としていた視線を彼に向けると、はある事に気付いてしまい、思わず吹き出しそうになった。
先程の思い出し笑いは何とか誤魔化したが、今度は抑えられそうにない。
怪訝そうにこちらを見ている彼の頬に、しっかりとついた柱の痕。
長い時間壁にもたれ、柱に頭を預けていたせいで、くっきりと木目がついていた。


「 コ コ 」


は自分の頬を指し、彼のそのあたりに痕がついている事を教えてやった。
すると彼は汚れかゴミが付いていると勘違いしたのか、眉根を寄せて少し恥ずかしそうに袖でゴシゴシと擦りだした。
そんな彼を見て、ついまた笑みが零れる。
一歩外に出れば敵同士だというのに、はいつも彼と自分の立場を忘れてしまう。
愚痴っぽく言う彼の職場の笑い話を聞いて、彼らに好感をもち始めてしまっている程に。


「ねえ総悟」

「何でェ」


未だ頬を擦り続けている沖田。
返事も、生返事である。
普段人一倍冷静で強気なくせに、ボケ側になると打たれ弱い彼が可愛くて仕方がない。


「真選組の沖田総悟は、攘夷志士のを見付けたら捕まえる?」

「当たり前でィ」


当たり前、と言う彼が、
攘夷志士狩りが嫌で、ここに来ている事をは知っている。


はそっと手を伸ばす。
それ以上擦っては駄目だよと制止する為。
赤くなってしまった、愛しい人の頬に触れる為。
元々ない距離を更につめて、沖田に近付いた。




( こんな関係だというのに、すぐ手の届く距離に居てくれて…ありがとう )





― 企画 『ありがとう、なきもち。』提出作品 ―

TITLE By : ユグドラシル