1年が365日、2年だから370日、でも今年は閏年だから371日…とか、そんな事はどうでも良い。 とにかく、と土方が再会してからもう少しで2年が経とうとしている。

 土方が武州を発ってからしばらくした後に許嫁という立場を解消されて、それでもどうしても彼を忘れる事が出来ず、 残暑見舞いの西瓜を届けるという口実で屯所を訪れたのが、2年前。
 もう一度、今度は友達からやり直し…というところまでは何とかこじつけたが、それ以降の進展は、ない。
 一度だけ、夕方の波打ち際で良い雰囲気になったように感じたが、それはどうやらの勘違いで。 (思い出すと顔から火が吹き出すのではないかと想う程に恥ずかしい。)

 そもそも、真選組の屯所との家がある武州は遠距離という程でないものの、散歩で行ける距離でもない。 “友達” といえ、『ひーじかーたくーん、あーそびーましょー』 と押し掛けられるような間柄でもない。 何か理由をこじつけて遊びに行っていたが、その理由も早々ある訳でもなし。 見兼ねた近藤が屯所へお茶に招いてくれるようになったが、それだって月に一度、あるかないか。 それで、何か進展がある訳ない。
 もっと会いたい。 土方が忙しい事も知っているが、それでも。

「トシさん、好きです」

「…知ってる」

 そしてそのお茶会という名の、逢瀬…というような色っぽい事はないが、その帰り。 土方の運転するパトカーで家まで送ってもらっているなか、ふいに会話が途切れたのでそう呟いたのだが。

 再会した時、既に自分の気持ちは伝えている。 『お友達からお願いします!』 とお願いし、それを聞き入れて貰え、そんな関係でも良いと、充分だと、最初は思っていた。
 しかし人間の欲というものなのだろうか、そんな関係に満足できなくなってきた。 “友達” という関係ではあるが、昔と変わらず、“妹” の枠から抜け出ていない気がする。 それで幾度となく気持ちを伝えているのだが、今のように、反応は芳しくない。

 出会った頃のはまだ幼かったが、それなりに大人になった、と、思…う、多分。 もっともっと大人っぽくならないと駄目なのだろうか。 自分のようなタイプでは土方に女として見てもらえないのか。 と、ここまで考えて気付く。 そういえば、土方の好きなタイプを聞いた事がない。 少しでも理想に近くなれば、彼もそう見てくれるようになるだろうか。

「あの、トシさん、ひとつ聞いても良いですか?」

「何を」

「トシさんの、好きな女性のタイプ、です」

「…断る」

「ええっ?!そ、そんな事言わずに教えてくださいよお」

「だったら “聞いていいですか” なんて言い方すんじゃねェよ」

「あ、そっか、そうですね…。では、改めて、トシさんの理想のタイプを教えてください」

「断る」

「えええっっ?!」

 確かに土方はそういった話をしない。 けれど、何かを聞いた時には自分なりにであったとしても真剣に応えてくれる。 そんな彼のまさかの反応にちょっとたじろぐ。
 その答え次第で前進出来るかもしれないと少し期待していただけに、 うー、と、不満の声をあげると、土方は大きな溜息をひとつついた。

「好きになった奴がその時の好きなタイプになる。そういうもんだろ」

 諦めかけていた返答に一瞬気分が浮上したが、再度落ちる。 それでは質問した意味がない。は不満たっぷりに 『モテる男にアリガチな答えですね』 と、思わず厭味を溢す。

「んなこたねェだろ!つかお前最近総悟に感化されてねェか?ひねくれた気がすんぞ」

「もしひねくれたんだとしたら、総悟くんじゃなくてトシさんのせいです」

「何でそうなる」

 だって私がこんなに好きだ好きだと言っても全然応えてくれない。
 ―――と、そう言ってしまいたかったが、言葉にはせずに飲み込んだ。 もしそれを言ったら、友達以上の関係になれと言ったら、もうこの関係は続けられない。 そんな答えが返ってきてしまいそうで。
 また昔に逆戻りになるのであれば、今のままのほうがずっと良い。 そう思うと、それを言葉に出す事は出来なかった。

「…トシさんの好きなタイプ、私、本当は、知ってます」

 の言葉に、土方の煙草を持つ指がピクリと反応した。きっと何を言わんとしているかをを察してだろう。
 見ないふりをしていたが、知っている、本当は。 出来ればこのまま見ないふりを続けていきたかったけれど。

「優しくて、暖かくて、笑顔が綺麗で、大人で、でも可愛らしいところもあって…」

 それで、それで。
 まるでそんなひとが実在するかのような。
 それはそうだ。
 正確には “実在した” だけれど、確かにそういうひとが居た。

 彼が、愛したひと。

 土方が彼女へ向けていた眼差し、彼女が土方へ向けていた眼差し、それは幼いでもどういう事か理解するのは容易くて。
 幼かったせいもあって “あたしが いいなずけ なのに” なんて事も思ったが、二人はあまりにもお似合いで。 二人とも、大好きなひとで。

 鼻の奥がつーんと痛くなってくる。視界もじんわりと滲む。
 今が夜の、それも車内で良かった。 彼に表情を見られる事はない。 きっと酷い顔をしているに違いないから。

「勝手に思いこんで凹んでんじゃねェよ」

「…勝手な思い込み、じゃない、ですよね」

 やめろ、やめろ、やめろ。
 こんな事、言ってどうなる。 彼にとっても気持ちの良い話しではないのに。 せっかく会う事が出来たこの時に、それも後少しで終わってしまう今日の二人の時間に。
 ほら、紫煙を吐き出すのに紛らしたけれど、今のは間違いなく溜息だ。
 この大切な時間に自分は一体何をやっているのだろうか。

「その時好きになった奴がタイプだって言っただろうが」

 フィルターがジジ、と音をたてて焼け、その短くなった煙草を灰皿で揉み消す。 土方はもう1本の煙草に伸びかけた手を窓を開けるボタンへ切り替えた。 ほんの少し開いていた窓は大きく開き、夜風が車内に吹き込む。
 風は煙草の煙と、重い空気を少しだけ外へ流してくれた。

「お前の好きな男のタイプは?」

「…トシさんです」

 車は赤信号の前でゆっくりと停止する。 急ブレーキを踏まずに、身体が揺れる事もない安全運転。それもが乗っているからだろう。 もちろんそれをひけらかす事もしない。 そういうさり気ない優しさも、全部全部、全部好き。

「…何だ、自惚れてるみたいで若干アレなんだが、それはお前の好きな奴が俺だからだろ?」

「…………はい、」

 かっこ良くて背も高くて、強くて、優しくて。 そんな人が理想じゃないというひとがいるなら見てみたいと思う。 けれど、そんな土方の、ヘビースモーカーなところだったり、 重度のマヨラーなところには女性どころか男も皆引いてしまう、が、自分は違う。
 吸っていない時にふわりと漂ってくる、彼の匂いに混じった彼の吸っている煙草の香りが好き。 サラダにかけるのはお気に入りだったドレッシングからマヨネーズに変わった。 今ではメーカーを当てられる程になった。
 それは、土方が好きだから。

「結局お前も好きになった奴がタイプって事じゃねェか」

 信号が青に変わり、ゆっくりと車が動き出す。 やはり加速時の重力はあまり感じない。
 景色は都会からすっかり田舎へと変わり、星も幾分多く見えるような気がする。 既に馴染みのある風景だ。 もう少しで家に着いてしまう。 別れ際にこんなふうになってしまったが、土方はまた会ってくれるだろうか。
 着物の上でぎゅっと拳を握り絞めたが、頭に感じた優しい感触に、ふと力が抜けてしまう。
 ぽんぽん、と、土方がの頭を撫でた。

「俺のタイプはお前でいいよ」

 突然の、それも予想だにしなかった言葉に、はバッと顔をあげ、土方を見た。
 があまりにも落ち込んでいたから慰めにそう言ってくれただけだろうか。 それにしては、耳が少し赤い気がする。




「土方さん、あの、来週、あじさい祭りがあるんです」

「ああ、もうそんな時期か」

「えっと、一緒に、行ってくれませんか?」

「わかった、空けとく」

 自分の胸がドキドキと大きく音をたてているのが聞こえる。
 泣いたカラスがもう笑ったとバカにされるだろうか。 でも、それでもいい。下に向きっぱなしだった口角があがってしまうのは抑えられない。

「今度、一緒に、蛍も、見たいです」

「わかった」

「あ、花火も、海も」

「わーったよ、何処にだって連れていってやるよ」

 突き当たりを曲がれば家についてしまう。
 いつもこの道に来ると次はいつ会えるのだろうかと寂しくなるだけだった。 けれど今日は違う。 そしてきっと次もそうだという、ほんのり胸が温かくなる、淡い期待。

「トシさん、大好きです」

「ああ、知ってる」




よぞら : NEO HIMEISM

さやちゃんへ。お誕生日おめでとう!