物凄い勢いで仕事を終わらせて、猛ダッシュで恋人の家へ行き、慌てて晩御飯を作り、
恋人と恋人の家の居候の少女とゆっくり三人で食事をする。
それは今日だから…という訳ではなく、毎週繰り返される、の日常。
「…ちゃん、」
食事を終え、居候の少女が風呂に入っている間に片付けを済ませ、
彼女が自分の寝室 ――― 押し入れに入って行き、今、ようやくようやく一息ついたところ。
実質銀時と二人きり。ソファで並んでお茶をすすり、明日は休みだしこのまま泊まって行っても良いよね…?と思っていると、
彼の死んだ魚のような目が、更に胡散臭そうな色を湛えてこちらを見ていた。
「なあに?」
「何かさあ、」
「…何か?」
「何か臭うんですけど、気のせいですか」
「えっ、臭…」
銀時の視線を一言で、でもこれ以上ない程に適切な言葉でいうと、『疑いの眼差し』 以外ない。
じいっと見られながら 『臭う』 などと言われ、は顔を思い切り赤くした。
「し、してないよ、してないもん!ってゆーか、銀さんの前でした事ないじゃんっ」
「は?」
「それに女の子のは臭くないんだよ!フローラルなんだよ!」
「え、ちょっと待って」
「トイレでしかしないし……あ、やっぱり!そもそも、しない方向で!」
じっとりとした眼差しで 『臭う』 と言われたら、そりゃあおならだと勘違いしても仕方ない。
勿論はしていないし、自分にはその臭いも感じられない。
けれど疑われると恥ずかしく、銀時の腕をバシバシと叩きながら必死に弁解した。
仮にしたとしても気付かないふり位してくれれば良いのだが、銀時にそんなデリカシーなどある訳ない。
「いたたたた、いたいいたいいたいいたい。
つかそれはそれで病気ってゆーか、むしろが銀さんの前でオナラしたらそれはそれでまた良いってゆーか、いやそうじゃなくてえ。
つかマジいたい、いたいってば、いたいいたいいたいって言ってんでしょーがァァァ!」
「あた!…え、あれ?違うんだ?」
バシバシバシバシ叩くにチョップを一発くらわせると、我に返ったのか、は叩くのをピタリと止めた。
どうやらは、銀時におならをしたと勘違いされていると勘違いしていたらしい。
ほんのちょっぴり安心していると、すぐに当然の疑問がわいてくる。
『では一体、何が臭うというのか。』 物理的な匂いでなく、
隠し事や謀などに感付いた時などに使う 『におう』 なのか。
でも身に覚えもなければ、何かそういった勘違いをするようなそぶりをしたとも思えない。
じゃあ、やっぱり、『匂い』 なのだろか。は自分の着物をすんすんと嗅いでみたけれど、自分で自分の匂いはあまり分からない。
「…何か、匂う?」
体臭が臭う、という事も女性にとって恥ずかしい事だが、はさっきのおなら事件で感覚が麻痺していた。
いつもの香水はいつも通り朝すこーし付けただけだから 『臭う』 程ではないと思うし、
昨晩だけでなく、今朝だってシャワーを浴びた。
元々汗をかくタチではないし、汗をかくような事もしていない。
なにしろ今日一日、ずっと室内に篭って事務仕事をしていたのだから…と、ここまで考えて、ハタとする。
「マヨ臭い」
「…マ、マヨ?」
自分の出した答えと掛け離れた事を言われたのだと思い、の言葉は疑問形になってしまったが、すぐ理解した。
確かにお昼にマヨネーズを渦巻き状にたっぷりとかけた丼を食べる人の横には居たが、
マヨ工場の見学でもしたならいざ知れず、マヨネーズは匂いがつく物でもない。
彼が言っているのは、マヨネーズ自体の匂いでなく、それを好んで食べている、『彼』 の事。
「マヨネーズ臭いんじゃなくて、『タバコ臭い』 でしょ?」
真選組で事務をしているは、土方と一緒に居る事が多い。
ほとんどが沖田の器物損壊に関わる事で、お上への言い訳を土方が考え、が事務処理をするという日々。
その間、土方は常にタバコを燻らせている。
確かにタバコを吸っている人の側だとタバコ臭いと思うが、自分の着物についた匂いは気付きにくい。
家に帰り、風呂上がりに着ていた物を洗濯しようとすると、それがとてつもなくタバコ臭くなっているといつも思っていた。
今日は特に、昨日沖田が暴れてくれたおかげで、朝から晩まで土方と部屋に篭っていたのだから、当然と言えば当然。
「そんなんどっちでも良ィけどよ、タバコ臭い女なんかモテねーぞ」
「あたしは銀さんに嫌われなきゃ良いもん」
「銀さんだってタバコ臭い女は嫌いですぅー」
甘えるような事を言いながら銀時の腕に絡まろうとしたが、するりと抜けられてしまった。
口を尖らせ、ぷいと横を向く銀時。効果音をつけるとすれば、『つーん』 。
せっかく甘えてみたのにそのツレナイ態度にちょっと切なくなったが、もしかして、これは…。
「もしかして銀さん、やきもち?」
「、なッ…!!」
の言葉に、銀時は驚いて目を見開き絶句。
…というのが数秒あった後、マシンガンのように口を開いた。
「な、何言ってんの、言っちゃってんのちゃん、やきもち?銀さんがやきもち?んな訳ないじゃん!そもそもやきもちって何ヨ?焼いたモチか?モチなのか?
モチならモチで好きだけど、つーか食いたい、みたいなァ?いや今は腹いっぱいで入らないけどねー?」
一息でそこまで言いきった銀時に唖然としてしまう。
どんだけ動揺してるんだ。目はぐるぐると泳ぎまくっている。
図星だったのが、やきもちを妬いていたのが、そんなに恥ずかしいのだろうか。
その後もブツブツと文句を言いながら不貞腐れている銀時を見て、は笑いが込み上げてきた。なんという愛しさだろう。
「人の事見てナニ笑ってるんですかコノヤロー」
「ううん、ゴメン。あたしお風呂入って来るね」
「…ナニ突然」
「銀さんの嫌いな 『マヨ臭』 落としてくる」
だから、今度は銀さんの匂いをあたしに付けてね?
耳元で、内緒話しをするように囁く。こんな事で妬いてくれたのが嬉しくて舞い上がっていたのかも知れない。
銀時の口角がニヤリと上がったのに、は全く気付かなかった。
「ふぅーん、」
笑いを含んだ銀時の声が耳に届いた直後、は腕をぐいと引っ張られ、バランスを崩して彼の膝の上に乗ってしまう。
お姫様抱っこ座ったままヴァージョンだ。
見上げた銀時は、厭らしくニタニタ笑いながらを見下ろしていた。
「ちゃんやらしー。銀さんの事誘っちゃってェー」
「え、ちょ、違…」
攻守交代。今度はが焦る番だ。
否、もしかしたら、銀時は最初からこうなるように仕向けたのかも知れない。
固まったまま声を出せないに、銀時は続ける。
「いーよ、淫乱なは銀さん嫌いじゃないしぃー?
でも言ったからにはしっかりとってもらいますよ、セ キ ニ ン。
ねぇ?ちゃ〜ん?」
この時は冷汗をダラダラと流しながら悟った。
ドSの人にS攻撃をすると倍以上になって返ってくるので、決してやってはいけない事なのだと。
そして、決めた事も、ひとつ。
上長の土方さんに何と言われようが、会社の経費でファブリーズを箱買いしてやろう、と。
〜 お し ま い 〜
銀魂夢企画 「バクチ・ダンサーズ」 後夜祭 企画代表サチコさまへ!
素敵企画をどうもありがとうっっ☆
お題 : 「バクチ・ダンサーズ」茶会より