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「、生きてるか?」 ふいに降って来た声に顔を上げると、空が白み始めていた。 顔を背けたまま、声だけ寄越した男の髪の色と同化してしまいそうだ。 そこまで考え、は少しの間眠ってしまっていたのだと気付いた。 そろそろここを発つ頃合。だから銀時は声を掛けてきたのだろう。 「…生きているよ」 声を発すると息が白かった。 けれど不思議と寒くはない。 傷のせいか、戦で昂っているせいか、 それとも、肩から自分のでない羽織りが掛けられているせいか。 どんよりとした、天気の悪い明け方の空と同じ髪色の男に目を向けると、着ているはずの羽織りがない。 が眠っていた時、銀時はそれを掛けてやった。 泥や血でほとんど茶色く染まっている、ボロボロの羽織りを。 「銀時、寒くないか?」 「…っ、誰かに羽織り取られて寒くない訳ねェだろーがっ」 上着を女に掛けてやった事がそんなに恥ずかしいのか、銀時は強い口調で反論してきた。 自分で掛けておいて…と思いながら、照れ隠し以外の何ものでもない銀時の文句に、 くつくつと笑いが込み上げてくる。 銀時は岩陰から外の様子を伺うふりをして、チッと舌打ちをしながら不貞腐れたように顔を背けた。 今回の戦に出てから幾日かが過ぎている。 その間はもちろん野宿で、そんな事はもう慣れているし、もっと長い戦も経験している。 けれど、ここ数日で急激に寒くなってきたのが身体に堪えた。 しかしそれは相手も同じ事。厳しいは厳しいが、その寒さのせいで終戦も近いはず。 そこでフと思い出す。 「皆は無事だろうか…」 夜が明けるまでのほんの少しの間、身体を休める為に入った洞窟。 洞窟といっても崖が少し窪んでいるだけのこの場所。 けれど、敵陣から死角になるだけで充分。 雨風も凌げるとなればそれ以上。 そんな場所を見付けたというのに、辺りを見渡した時、そこには銀時としか居なかった。 高杉は、ヅラは、辰馬は。 そう考えた瞬間、頭の中に今までに見て来た仲間の亡きがらが浮かび、背筋がゾクリとした。 「大丈夫だろ」 少し気が抜けたような、低い銀時の声がを我に返らせる。 どこか他人事のような言い方なのに、どうしてか説得力のある声。 そうだ、あいつ等は大丈夫だ。 皆で夜陣を敷き、きっとはぐれたのは銀時とのほう。 夜明けと同時にまた戦場で合流出来るだろう。 そう自分を納得させようと考えるが、どうしても頭の中の黒点が消えてくれない。 目の前で動かなくなってしまった人々の映像が、消えてくれない。 何を考えているか一目瞭然のを見て、銀時は大きく溜息をついた。 「お前がンな顔してんじゃねェよ」 「…私は、大丈夫だ」 青い顔をしたが 『大丈夫』 と言ったところで、説得力の欠片もない。 戦の前、円陣を組んだ。奴等は世辞抜きで強い。 もそれは判っているだろう。 けれど、今まで経験してきた事に捕われている。 そっとに目をやると、曇りのない瞳が揺らいでいた。 志も、誇りも高い。真っ直ぐな彼女の事は、皆認めていた。 男女関係なく、心から仲間だと思っている。 戦力にもなる。 けれど銀時は、やはり彼女を戦場へやるのは賛同出来なかった。 自分の惚れた女だからか。 それもあるかも知れない。 けれどそれ以上に、彼女は戦をするには向いていない。 人を斬る毎に心を痛めている。 そして、どんなに辛くても、逃げ出したりしない事も、知っている。 例え押さえ付けてやめさせようとしても、真っ直ぐ歩む足を止めない事も。 想像以上に辛いはずだ。だから、自分に出来る事は、 「あ」 透き通るような、凛とした声が耳に届いた。 銀時は声の主が見つめるほう、空へと目を移す。 空からパラパラと降っていた雨が、雪へと変わっていた。 真っ白な、綿毛のような雪が舞う。 陽が上り、夜が明ける。 銀時はへ、手を差し延べた。 ![]() 見上げた、銀時が纏う雪は、つばさのようだった。 戦場で白夜叉と恐れられる彼が、まるで、まるで…、 何かがつかえたようだった胸が、すとんと軽くなる。 大丈夫。みんな、無事でいるだろう。 先程まではどう頑張ってもできなかったのに、いとも簡単にそう思えてしまう。 そんな自分に苦笑しながら、 いつまでこの状態で居させる気なんだと顔を歪め始めた銀時の手をとった。 |