犬は眠い時以外、緊張した時にもあくびをするらしい。
――― が、彼は犬ではないし、ましてや人間。
それに、緊張するような神経も持ち合わせていない…と思う。


いつもは死んだ魚のような銀さんの目が、今はとろんとしている。 たまに目をこしこしと擦ったりも。何という性格をしているのだろうか。 普段からやる気満々!では全くないけれど、今は彼の誕生日会真っ最中。 皆銀さんの為に集まってくれているというのに、その身に纏った気怠さオーラといったら、もう。


「失礼な人だなぁ」

「んあー?」


不満を口に出してみると、間の抜けた声が返ってきた。 そして口を開けたせいか、銀さんはそのまま大きなあくびを一つ。


「みんな銀さんの為に来てくれてるのに、あくびなんかして」

「眠ィもんはしょーがないでしょー?」


それが失礼だと言っているのだが、そもそも銀さんは気を使うような人でもないし、 気を使わなければならないメンバーでもないから仕方ないのかも知れない。 そんな事を考えていると、それに…という接続詞が隣から聞こえてきた。


「これ、俺を祝ってるように見える?」

「あぁ、ん…まあ、ねぇ…」


万事屋に集まったのは、1階のお登勢とキャサリンとたま、そしてお馴染み神楽と新八との計6名。 日中、銀時がパチンコに行っている間に神楽と新八が部屋を飾り付け、が料理を作って準備をした。 幼稚園のような、折り紙の短冊を輪っかにして繋げていくアレを飾り、 『銀ちゃんおめっとさん』 とイビツに書かれた垂れ幕を貼って。 垂れ幕は既に一辺剥がれて、後ろの 『糖分』 が見え始めている。 …と、いうのも、彼らの暴れっぷりは(いつもながら)凄いのだ。 酒も入っていないのに騒いで暴れられるのがここに集まった人達。 テレビで芸能人モノマネ大会をやっていたせいで、ここでもモノマネ大会が始まってしまった。 神楽が猪木の真似をすれば、お登勢はサブちゃん、 キャサリンは自分が外国人(風)というだけで似てもいないユンソナ、新八のお通はただのカラオケになっている。それもラジカセを大音量にした音楽付きで。 驚いたのはたまで、全てのモノマネを完璧にやってのけた。 どうやらテレビの声をデータ化し、自分の声として出せるモノマネ機能を搭載していたらしい。 何その無駄な機能。貴方はスイッチですか。 とまあ、盛り上がっているには盛り上がっているのだが、銀時とはそれを眺めているだけで、楽しんでいるのはその4人だけ。


「ところで銀さん、今日でいくつになったの?」

「あ?」

「トシです、トシ。」

「なにマヨ方?」

「うわぁ…そのボケ、キレなさ過ぎ」

「るせー。眠くて頭回ってねェー、のっ」

「痛!」


最後の 「の」 と同時に後頭部に掌底を喰らった。 せっかくツッコんであげたというのに、何という仕打ちかと口唇を尖らせる。 痛がってみせる為に大げさに後頭部を擦ってみたけど、銀さんはちらりとも見てくれない。 その視線の先は、カラオケ大会という名の4人の暴走。 楽しそうな光景はどこか他人事で、大きなスクリーンを銀時と二人並んで眺めてでもいるよう。 まあ、もし本当にそうだとしたら、酷過ぎる映画だけれど。
あ、またあくびしてる。もう2回目だよ。


「銀ちゃん何あくびなんかしてるネ!」

「そうですよ銀さん、銀さんも何かやってくださいよ!」

「ワタシガ結野アナヲヤッテアゲルヨ」

「俺の結野アナを汚すんじゃねェ!そして汚ねェもん見せるなァァァ!!」


モノマネというか、ただ着物をめくりだしただけのキャサリンに、銀時が投げたビールの空き缶がクリーンヒット。スコーン!と、とっても良い音をたてて。 しかしそんな事でこの騒ぎがおさまる訳もなく、その混沌(カオス)っぷりは増す一方。 一瞬銀さんを巻き込みかけた喧騒はまた戻り、また二人でその光景を眺めるだけになった。


ふと時計に目をやると、もういい時間になっている。 そろそろお暇しようかな? 明日は仕事もあるし、銀さんもまたあくびをする頃だろうし。 小さく息をはき、腰を上げようとした瞬間、銀さんが大きな口をあけてあくびをした。ほらね、やっぱり。


「んじゃ、行くかァ」


私はそろそろ帰ります…と、言おうとして飲み込んだ。 口に出す前に銀さんが独り言のようにボソリとそう言ったから。 銀さん、今何て言いました? もしかしてそれは送ってくれるという事? でも(一応)銀さんの誕生日会なのに、主役が抜けていいの? いやまあ、この空間の主役は既にあの4人のものだけど。 そもそも私に言ったのかな? それともやっぱり銀さんの独り言? あれ?でも、でも。 呆然としたままのを気にも留めずに、銀時は立ち上がってスタスタと玄関へ歩いて行く。


3回目のあくび
(それは部屋を抜け出す合図)


ー?」

「え?あ、はい!ちょっと待って!」

「早くしやがれコノヤロー」


皆を残して、二人で外へ。
あんなに堂々と抜け出したのに誰も追いかけてこないのは、それだけ盛り上がっているから? それともそんなに私達存在感ないのかな? それとも…みんな気を使ってくれたから?


ほんの少し、家までの帰り道だけだけど、二人きりの銀さんの誕生日。
秋の夜風はちょっと冷たく、あくびの代わりに今度はくしゃみ。
手を繋いだら少しは暖かくなるかな?
街灯の下、鼻水をすすりながら待つ銀時の元へは駆け寄った。



お誕生日おめでとう、
銀さん!



(銀さん誕生日企画 さかたん09 様へ)
From ANNA