勝手知ったる万事屋銀ちゃん。
はニヤけそうな顔を堪えて戸を開けた。
お邪魔しますよー と、適当な挨拶をして返事も待たずに入っていくと、
ソファでごろ寝しながらジャンプを読んでいる銀時が目に入る。



「お誕生日おめでと!」

「んあ?」



10日ぶりに現れた女は、今日が誕生日だと言わんばかりにそう言った。
自信満々に。
何を隠そう銀時の誕生日は既に一週間前に終えている。
当日の銀時は、が来るかも知れないという淡い期待をし、それは見事に裏切られた。
そんな女々しい事誰にも言えはしないが、多少なりとも凹んだというのに、だ。



「あのーちゃん、銀さんの誕生日先週なんですけど…」

「知ってるよ」



耳をほじくりながら言う銀時に、平然とそう言った。
はわざと、今日を選んだ。
当日駆け付けたいと想う気持ちを抑えて。
銀時はこれで結構慕われているから、他の人が祝いに来るかも知れない。
直後、わざわざ祝いに来るような人は居ないかも…とも思ったが、
神楽と新八は祝うだろうし、銀時しか居ない今日に決めた。
大勢と供にでなく、から銀時へ、祝いたくて。
は普段照れ臭くてあまり見せない笑顔を思いきりつくり、それを差し出す。



「ハイ!」

「…え、何?プレゼント?今更?」

「そーゆー事言わないの!」



目の前に置おかれた大きな箱。
ストライプの包装紙にリボンが付いているだけのシンプルさがらしい。
諦めていたそれが目の前にあり、何より、あまり見せない笑顔を向けられて、
つい緩みそうになる頬を、銀時は堪えた。



「ありがとう、は?」

「へいへい、ありがとさん」

「もー!可愛くないなー!」

「ナニナニ、可愛い銀さんをお求めですかァー?」

「別に。」

ちゃん可愛くなぁ〜いっっ」

「銀さんはキモい。いいから開けてよ」



キモいとは何ですかコノヤロー。そんな事を言いながらリボンを解く。
平静を装っているけれど、内心かなり動揺している。
が自分の為に用意してくれたプレゼント。
恥かしながら心臓はバクバクいっている。
『何が出るかな♪何が出るかな♪』 と、能内で歌いながら。



何にしようか悩みに悩んで決めたプレゼント。
平静を装っているけれど包装紙が開いていくにつれて胸のドキドキは大きくなっていく。
ビリビリと破いて開けそうなものなのに綺麗にテープを剥がしているのは、
気を使ってなのか、こんな変なところで几帳面なだけなのか。
ちなみに能内BGMは 『あなたがわたしにくれたものっ♪』。
…何故かは判らない。



「……ちゃん?」

「ん?」

「これは一体何よ」

「え?見たまんまだと思うんだけど。銀さんには何に見えるの?」

「 フライパン 」

「そうだよ?」



包みから出てきたそれは、
パンダの絵が書いてあるフライパン、カエルの形のフライ返し、
蟹のハサミの形のトングなどの、お料理セット。
何を貰っても嬉しい。嬉しい…が、何故?
何かを期待していた自分が情けなくなってくる。
どちらかといえば男から女に 「俺の為に料理を作ってくれ」
的にプレゼントするものではないだろうか。
もしくは新八みたいな主婦…もとい、主夫に。



「銀さん?ウンとかスンとか言ったらどうなの」

「スン。」

「あ〜の〜ねぇ〜」



悩みに悩んだプレゼントへの反応が芳しくない。
何故だろうか?
これ以上に銀時に似合いの品はない!と、
思いついた時は舞い上がるようであったというのに、ちょっと凹む。



「銀さんにはこのプレゼントの意図が全く見えないんですけど?」

「え?だって銀さん突然本格的なお菓子作ったりするじゃん」

「は?」

「デコレーションケーキとか、デコレーションケーキとか、デコレーションケーキとか。」

「………、」

「ん?」

「いいですか、プライパンでデコレーションケーキは作れません。」

「――― … はっ!!」

「 『――― … はっ!!』 じゃねェだろォがァァァ!!」



ズビシ!!と、銀時のチョップはの頭に良い音を立ててクリーンヒットした。
そうなのだ。が少し抜けているのは知っている。
実はそういったところも含めて…なのだが、本人は全く気付いていないだろう。
今更自分の失敗に凹んで泣きそうになっているところも、何とやら。



銀時が思い立ったように好物の甘い物を作る事は知っていた。
だからプレゼントは菓子作りの道具が良いと思いつき、
店を物色しているうちに、あの料理上手な芸能人グッチョさんデザインの
機能的かつ可愛らしいデザインの物を見付けた時にはコレしかないと思った。
そればっかりに気を取られ、お菓子作りの道具という事は一切頭から抜け落ちてしまった。



「…しょーがねーな、ったくよォ」

「………」

「このフライパンダでホットケーキでも焼いてやるから待ってなさい」

「え、銀…さんっ」



の表情が花を撒いたように明るくなる。
惚れた弱みか、その表情を見ているだけで浮き足だってしまう。
こんなにもに振り回されているというのに、
何故この女は自分の気持ちに気付かない?



気落ちしていた気持ちが一気に浮上する。
気怠そうに頭をボリボリとかきながらで判り難いけれど、
こんな銀時の優しさが、何とやら…なのだ。
銀時の一言一言で自分は一喜一憂しているというのに、
何故この男は自分の気持ちに気付かない?




気づけよ、鈍感


/




ジュワっと生地を焼く音の後、
甘い香りが鼻をくすぐる。



「銀さん、蜂蜜出しておくねー」

「ついでに皿も出しとけー」

「はーい」



でもまぁ、もう少しこの関係でいるのも良いかも知れない。
この、甘い香りの漂う心地よい関係のままで。
もう少し、だけ。





HAPPY BIRTHDAY 銀さん!
FROM:ANNA