少しばかり勢いが強過ぎたのか、隣に座る京平がグラスを口へと運ぶ手を止め
怪訝な表情で見つめるのを、黙ったまま薄く笑いながらやり過ごす。
「いいのか」
「ん、なにが」
「連絡待ちだろ、酒飲んでたら折角の」
「嗚呼、違うの、どのみち今日は予定が潰れたし」
「それで俺と飲んでんのか、酷ぇな」
言うほどには気にも止めていない
頬杖をつきぼんやりと眺める、今夜は誕生日、一緒に過ごしているのは
昔からいて欲しい時に確実にそこにいてくれる、気が置けないトモダチ。
「遅ぇ、何やってたんだ」
「ごめん、携帯を落として、結局見つかったんだけど」
「そんなら仕方ねえか、つうか、端から落とすな」
チッと小さな舌うちのあと、幾分声が和らいだ、案外心配してくれていたのか
そう思い、携帯越しに見えない微笑みを浮かべたのも束の間、流れて来た科白は
「悪い、明日都合が悪くなった」
「借金踏み倒してた奴が、明日アパートに戻るって情報が入って」
「一日中、張ってなきゃなんねえ、だから時間の目処が立たない」
いつもは口が重い静雄がやけに饒舌なのは、悪気を感じているからで
それは少し嬉しいけれど、やはり残念なことには変わりない、吐息交じりに
「次は、いつ」
「いつでも、明日以外なら最優先にする」
嘘ばかり、と言う科白は脳内で発して、淡々と次の約束をし携帯を閉じた。
「彼女の誕生日くらい、都合付けてやりゃいいのに」
「ふふ、そこが静雄らしいと言うか」
「らしい、か、まあそう言っちまえばそうだけどよ」
「はそれでいいのか」
トーンが変わった声音に、つ、と横を向くと、やけに真摯な色を瞳に湛えた京平が
角ばった大きな手をこちらへと伸ばし、ハッと気付いたようにその指先を泳がせた。
「俺だったら、そんなことはしない、絶対に」
分かってる、痛いほど、京平がどれだけ優しくてどれだけ私を想ってくれているか、も
知っていながらも、どうしてもその胸に縋れない自分の不器用な正直さを呪い、そして
そんな優しさを利用する自分のあざとさをさらに呪う、嗚呼、どれだけ罪作りなことよ
「京平の彼女になった子は幸せ者ね」
残り一本になった煙草に火をつけ、紫煙を燻らせながら斜につぶやいた
何かの科白をぐっと嚥下し、視線を逸らした京平のプロフィールに浮かぶ苦悩
そんな表情を眺めながら、密かに柔らかく残酷な夢を紡ぐ、私は酷い女なのだろうか。
「」
人もまばらなバーに響いた低い押し殺したような声、時刻は23時58分
どうして、嗚呼、彼は、ぎりぎりで間に合ってしまったのだろう。