自分の上で女が揺れているのを見上げている。
ゆるくパーマのかかった長い髪も、豊かな胸も、くびれた腰も、ゆらゆらと。
その、いつもの行為が、いつもと違って見えるのは。


AFTER

- after the RIPPER NIGHT -



時遡る事数時間前、静雄とはバーで居合わせた。 偶然…ではない。確かに約束はしていないが、静雄はを待ち、は静雄が居る事を期待していた。 二人がそこで会うのは珍しい事ではなく、だからこそこの店に足を運んだのだが、珍しい事もひとつあった。 ひとつ、ではあるが、物凄く珍しいひとつ。
その晩の静雄の機嫌は、もの凄く良かったのだ。


『なぁ、聞いてくれよ』

『ん、なあに?』

『俺なんかを愛してくれる奴も、世の中いるみたいでよぉ…』


が静雄の隣に座ったときには、静雄は既に酩酊状態だった。 煙草のフィルターを齧りながら、嬉しそうに、本当に嬉しそうにそう言った。 傍から見ればそれはただの惚気のようにも聞こえるけれど、それを言っているのが静雄であるという事と、 その晩の街の事件の事を考えれば、それは自ずと否定される。 後に、リッパーナイトと渾名された事件が起こった、今晩。


『俺も、好きになってもいいのかも知れねえ。…自分も、ひとも。』


力のせいで、周りからどんどん人が離れていった。
自分で自分を責め、自分で自分が愛せなくなった。
寂しくない訳ない。どんな小さくても良いから、人と繋がっていたい。
けれど、自分を愛せないのだから、人から愛されるわけがない。
確かにそう思っていた。数時間前までは。


『ばかね』

『…あぁ?』

『あたしはずっと、愛してるって言ってたじゃない』


信じられる訳がない。誰からも愛されてなどいないと思ってきたのだから。
でも。
人間ではない、ないけれど、自分を 『愛する』 と言った妖刀 罪歌。
それに対し、『怒り』 ではなく、自分の意思で使った力。それも、自分を制御しながら。
もしかしたら。

カクテルをくるくると混ぜる、綺麗に塗られた人差し指の爪先。
自分など見ずに 『愛してる』 と言う女の細い手首をぐいと引く。


『…じゃあ、いますぐ証明しろよ』


深く、深く、口唇をあわせた。
むさぼるように舌を絡ませ、呼吸が出来ない程に何度も、何度も。
周りからは息を呑む声も聞こえたが、それは次第に消えていった。
そこからどうやって部屋に戻ってきたかは覚えていない。


「静雄、愛し、てる…っ」

「もっと、もっと言え」

「愛してる」

「全然足りねえよ」

「愛してる、愛してる、愛、してる…!」


紅く彩られていた口唇は、繰り返される口付けのせいで素の色が見え初めている。 それでも形のよい、ぷっくりとした口唇から奏でられる 『愛してる』 は、酷く官能的で、酷く心地良い。
自分の上でゆらゆらと揺れているそれでは次第に足りなくなっていき、静雄はを組み敷くと、更にそれを強くし、そして再び口唇をあわせた。


「なあ、…!」

「んっ、静雄、な、に…」


こんな自分と関わる奴は、その人もどこか普通でないか、自分を殺したいか。
もしくは、普通でないものを求めているか…の、どれかだと思っていた。
今までから聞かされてきた 『愛してる』 は、どこかママゴトのようだった。
本気だと思った事は一度もなかった。
何度口付けを交わし、何度躯を重ねても。
でもそれは、自分が否定していたから。


「俺も、さあ、」


直接ではないが何度もに精を吐き出し、彼女は気を失ったまま眠りについていた。
上下に動く白く小さな背中に、布団を掛けてやる。
色素の薄い、ふわふわの髪の毛に指を通すと、は気持ち良さそうに寝返りをうつ。
こちらに顔を向けたに、既に夢の世界に居るに、 自分の言葉など届かない、聞いていないとわかっているけれど。


を好きになっても、良いのかも知んねえ」


小さく、小さく、静雄はそう言った後、眠りについた。